もはや物珍しさもなくなった第三者のためにする契約による売買、いわゆる「三ため」ですが権利変動の流れは非常にテクニカルですので、あらためて記事にしようと思います。
私はかつてスタッフとして勤務していた司法書士事務所にて投資用区分マンションの登記を行っており、三ための登記は毎日のようにおこなっておりました。この事務所で分かったいくつかのことについてまとめておきます。
1.「三ため取引」とは
三ため取引とはフクダリーガルコントラクツ&サービシス司法書士法人の代表である福田龍介先生が開発した法的スキームで民法537条(第三者のためにする契約)を実体法上の根拠とした手続きです。
この条文の要旨としては
①契約当事者以外の第三者に対して直接給付する契約ができる。
②契約当時第三者が確定していなくても良い。
③この第三者の給付を受ける権利はその第三者が債務者に給付を受ける意思表示をすることで発生する。
といった具合でしょうか。
ながらくこの類型は保険の受取人が契約者本人ではない場合について利用されてきました。(第三者のためにする生命保険契約(保険法第42条))
たとえば保険契約の当事者は保険会社と契約者(毎月の保険料を支払う人)ですが、生命保険などの場合、受取人を相続人としておくことができるため、保険金を受け取るのはその相続人です。
条文に当てはめて考えると、生命保険の場合、契約者の死亡によって保険金は保険会社から相続人に支払われることになるため、債務者は保険会社、第三者は相続人を指します。
一般にこの保険会社の法律上の立場(債務者)を「諾約者」、保険契約の契約者の立場を「要約者」、保険金の受取人の立場を「受益者」と言います。
この契約で登記上一番重要であるのは、契約当事者は要約者と諾約者であり、受益者が受益の意思表示をすることで給付の請求権は受益者に生じるものの、給付される物自体の物権変動は諾約者から受益者に起こっているという点です。
2.そもそもなぜ「三ため」の開発が必要であったか?
実を言えば不動産売買の慣行上、この中間を抜かして登記するということは割に行われていたことでした。しかし平成17年施行の不動産登記法大改正により添付書面として「登記原因証明情報」の提供が求められるようになりました。
この「登記原因証明情報」は登記が発生する実体法上の経緯を記載するもので、従来の中間者を抜かす方法は、「登記とは実体法上の権利の変動を忠実に再現すべきである」という理念から外れてしまうために使えなくなってしまいました。
この改正により、従来不動産慣行行われてれていた手法が認められなくなることで、法律の改正前であれば中間者を抜かす方法で成立していたであろう売買ができなくなってしまうという事態が生じてしまい、手続法の改正が実体の売買を阻害してしまうというマイナスの側面も持った改正となってしまいました。
確かに不動産登記法改正によって提供すべきとされた「登記原因証明情報」に物権変動の経緯を正確にあらわすべきであるという理念には、「手続法が実体法上のもと運用されるべきである」という考えから合理性があるため、まっとうな改正であると評価できますが、一方で不動産登記制度は、「所有者が分かりづらい不動産の取引を登記という制度を用いることで安全に行い産業の活発化を促す」という役割もあります。
三ための開発がされる前は、不動産登記上の理念の追求と不動産取引上の慣行からの現実的な要請
というジレンマに陥っていたといえます。
ここで登場したのが三ため取引でした。
先の記載のとおり、三ための物権変動は諾約者から受益者に起こっているため、過去の不動産取引の慣行のまま、実体法上の問題もクリアしていることになります。
これはある意味不動産登記のまったく新しい手法の開発といえるものでした。
本日の記事は以上となります。三ため取引は面白い論点が多く一度では書ききれないため、この続きは改めて記事にします。
お読みいただきありがとうございました。
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