地面師、それは他人の土地を売りさばく詐欺師集団です。
少し前も積水ハウスの地面師事件で大騒ぎ。
司法書士としても、こうしたニュースが流れるたび背筋が凍る思いがあります。
実は私が補助者時代勤めいてた、とある司法書士事務所でも私が入る前、地面師に騙されていたみたいでした。
私はそれを知らずにその事務所に入ったのですが、ある日ネットで調べていたところ、被告に代表の名前が・・・。
被害総額は億を超えていて、毎月の返済に苦労しているようでした。
司法書士はもちろん登記の専門家ではありますが、決済の現場ではこれで登記ができると確信したら融資実行のゴーサインを出します。
したがって、見抜けなかった司法書士にも一定の責任がります。
そのため司法書士には地面師に備えての保険制度がありますし偽造の身分証明書の見分け方の研修もあります。
司法書士もやられっぱなしではありません。
地面師に狙われやすい土地というのはいくつかパターンがあって、ある程度の経験を積んだ司法書士であれば、このパターンに当てはまる事件については慎重に仕事を進めます。
以下、狙われやすい土地の特徴です。
- 単価の高い土地であること。
これは明白ですが、詐欺をやるにしても実入りが少なければリスクは取れないわけで、額が大きければそれだけ狙われやすいことになります。逆に言えばそれだけ司法書士の賠償額が大きくなります。 - 更地であること
これは1とも関係があるのですが、一般に土地というのは更地が一番価値が高いです。
また、更地ということはその土地に住んでいる人がいないわけで、その土地の所有者は別の場所にいるので、事前に対象物件にあるご自宅で会うといったことができないわけです。
また、遠くに住んでいればなお都合がよく、なかなか本人が出て来られないことにしておいて代理人が売却をすすめ司法書士が実際に会うのは決済の日だけにすることで、ボロがでないようにすることができます。 - 相場より安いこと
売買契約書に書かれている売買金額がやけに安いのは疑うべきです。
地面師は長く活動すればするほどリスクが高まるので、売買交渉にあまり時間を割きたくないです。よって安くすることで早く売ろうとします。
したがって、購入する際も安いからといって飛びつくのではなく、慎重に考えるべきでしょうし、司法書士も警戒すべきです。 - 決済を急がせる
この点は3とも関わりがあるのですが、地面師はさっさと払わせて雲隠れしたいのが本音ですので決済を急がせます。また司法書士に関していえば、決済を急がせることで慎重に事件を進めることができなくなります。買主もよく調べることができなくなるので、地面師に有利になります。 - 担保権がついていない
通常、不動産の売買においては、買主は担保権等のついていない綺麗な権利を取得したいので、売買対象の土地に担保権がついている場合、その担保権を抹消して買主に土地を移転します。
担保権の抹消については、銀行からの委任状をもらったり権利証等が必要になるので、売主は決済の前に事前完済の申し込みをしています。
その際、銀行は当然債務者の情報をもっていますから、本人以外の人から事前完済の申し込みがあれば当然不自然な点がでてきて怪しまれます。
したがって、こうした土地は地面師にとっては狙いづらい土地といえるのです。 - 権利証、登記識別情報通知がない
過去法務局に勤めいていた方のお話によると権利証の偽造というのは結構難しいようです。
また登記識別情報通知の偽造ですが、これまた偽造は事実上難しいでしょう。
パスワード部分が袋とじになってますので、より特殊な印刷技術等が必要になります。
可能性としてなくはないでしょうが、かなり難しいと言わざるを得ません。
では、地面師は権利証や登記識別情報通知が用意できない場合にどうするのでしょうか?
それは、「資格者代理人による本人確認情報」の提供制度を用います。
権利証や登記識別情報通知自体も実体のある物ですので、紛失したり捨ててしまったりで真の権利者であっても権利証や登記識別情報通知が無くなっていることがあります。
こうした場合に使うのが先の制度で、司法書士が権利者と思われる方に直接面談して免許証やマイナンバーカードを確認したり、本人しか知りえない質問をいくつか行うことで権利者かどうかの矛盾がないか調べます。
正直かなりアナログなやり方と言わざるを得ませんが、現在の技術や法制度ではこの方法しかないのが現実です。
地面師は、権利証をなくした事情をでっちあげ司法書士に問われそうな質問に対する回答を事前に準備しておいて、本人になりすまします。免許証やマイナンバーカードは当然偽造になります。
なんでも20万くらいで作る業者があるとかないとか(当然犯罪です!)
こうしてまんまと司法書士をだました地面師は、権利証がないにも関わらず売買代金を受領することができるようになる訳です。
以上、いくつか地面師に狙われやすいケースをまとめてみました。
ただ、こうした特徴に当てはまらないからといって直ちに安全かと言われればそうではないでしょう。
現状、司法書士は過去の経験や状況証拠の寄せ集めで、所有者本人であると確認するしか方法がないのが実情です。
このあたりの解決は、ブロックチェーン技術を応用した売買など技術的な解決とそれに合わせた法律の改正が必要になってくると思います。
これからも、司法書士と地面師の攻防は続いていくのでしょう。